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2話 突き付けられた現実

last update آخر تحديث: 2026-01-22 16:00:48

真っ暗な中、一人立っている私……遠くの方で私を呼ぶ声がする。

「久遠さーん……」

誰なんだろう。女性の声だ。

「燈(あかり)さーん」

声が耳元でして目が覚める。視界には白い服を着た知らない女性が居る。

「目が覚めましたか?」

ニッコリと笑ってそう言ったのは、看護師さんだ。私は周囲を見回す。……ここは……病室だ。薬品の匂い、清掃されたばかりの清潔な部屋。良く知っているこの雰囲気。

「気持ちが悪いとか、無いですか?」

そう聞かれて私は自分の体の状態に意識を向ける。

「えぇ、大丈夫です」

そう言うと看護師さんが悲しく微笑む。

「そうですか……良かったです」

その笑みを私は知っている。

(あぁ、そうか……)

私は手を動かし、自分のお腹に触れる。それでも確証が欲しくて聞く。

「あの、赤ちゃん……」

ほんの少し、期待した。もしかしたら、そんな事が起こらないとは言えないからだ。目頭が熱くなっている。鼻の奥がツンとして来る。看護師さんが悲しそうに言う。

「……残念ですが、助かりませんでした」

涙が溢れて来る。……やっぱり、そんな思いに反してそれを受け入れたくない自分が居る。自分が妊娠したと分かった時のあの高揚感、そして自分の中から溢れ出して来る愛情。この世の何よりも愛しく大事にしなくてはいけないという使命感……日々、気を遣い、何事も無いように過ごして来たつもりだった。そして医師である私には分かっている。妊娠初期の流産は母親のせいではないという事を。……特殊な場合を除いては。胸がドキドキして来る。そんな筈は無い。つい数日前の検診でも問題は無かった。数値的にも体調的にも。万全だった筈なのだ。それなのに、そう思いながら体を起こす。

「ダメですよ!寝てないと!」

そう言いながら看護師さんが私を止める。

「大丈夫です……」

涙を拭いてそう言い、私はベッドを出る。まだ麻酔が抜け切っていないのか、フラフラする。

彼らはここに来ている。

私はそう確信していた。ここは聖カトリーナ国際医療センター。この地域では一番大きく、そして何よりも湊がここで働いている。そしてあの愛沢くるみと湊が一緒に居るというのなら、ここしか無いと思ったのだ。

ハッキリさせたい、させなければ。

どうして私があんな言葉を向けられなければならなかったのか。

そしてどうして湊が愛沢くるみと一緒に居たのか。

真実をハッキリさせなければ。

ふらつく足取りで私は聖カトリーナの廊下を歩いた。良く知っている場所、かつては自分もここで仕事していたのだから。急患が入る度にこの廊下を白衣をなびかせて駆け抜け、駆け出しながら看護師たちに指示を飛ばしていたあの頃。すれ違う看護師の中には見知っている顔の人も居た。皆、私の顔を見るなり、ハッとして視線を伏せる。そして私が今、どうしてふらつきながら廊下を歩いているのか、好奇と興味が彼らの気を引いているのが分かる。

辿り着いた先――その扉に掛けられているネームプレートには「久遠 湊」の文字。私の夫だ。扉に手を掛けようとしたその瞬間――

中から聞き覚えのある声が漏れて来た。私は直感的に手を止める。

「……彼女には俺の子を産む資格なんて無い」

くぐもっていたけれど、その声を聞き間違える訳など無い。だって声の主は私の夫、久遠湊のものだから。息を飲む。この先に続く言葉は一体何なのか。

「この子は颯太への供養だ、そして彼女への“罰”でもある」

その言葉が私の頭の中で繰り返され、次第に大きくなっていく。

……罰?

……供養?

体の芯からの震え、その震えが手先へと伝わる。ガタガタと震えながら、その言葉を反芻する。まるで深い水の中へと突き落とされたように体温が下がって行く。

(そうか、そうだったのよね……)

結婚して三年、私が湊へ注いで来た愛情も、尽くして来た努力も、全ては無駄だったのだ。だって彼は私を愛してなんていない。むしろ憎んでいる。

                      

そして失ったものは全て、颯太――森崎颯太への贖罪と供養でしか無いのだと。

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